ウォーターフォール開発再考
ウォーターフォールのデメリットや陥りやすい失敗が欠点とか害悪とされることが多い(多かった)。だがソフトウェア開発方法論界隈はポジショントークが多いので注意が必要だ。僕自身もウォーターフォールを悪者に仕立てた上に自分の主張を置いたことがあると思うので言えた義理ではないが、ウォーターフォールの悪口自体は鬱憤晴らし程度の意味しかない。
思うに、ウォーターフォールは要求事項の最大公約数だ。かつてのPMBOKにも通じるものがある。そしてこれが一番の弱点だと今思うのだが、その要求をどう実現するのかの観点が弱い。必要なことだけを強く言い、それが揃った理想世界の話だけをしている。普通の人間による普通の組織がそれができるかという点にはあまり意識が向けられていない。その弱点にしわ寄せが来て、ウォーターフォールの典型的な失敗が発生し得るのだろう、と今の僕は思う。
プロジェクトをどう成功させるのかを考えるなら、人間というものを踏まえる必要がある
ウォーターフォールの代案として登場したアジャイルソフトウェア開発。アジャイルソフトウェア開発宣言を見てみると、こっちの方が価値があると言うばかりでそれはなぜかは言っていないのでわかりにくいのだが、それでも価値観や原則には、プロジェクトを成功させるための考慮や工夫が見てとれる。
それは、プロジェクトは人間(の集団)が行うことなので、人間ができるように、人間の持つ癖や弱みをうまく回避し、強みを発揮して乗り切ろう、という戦略だ。つまり人間中心。これが当時僕にとってアジャイルが魅力的に見えた理由かなと今思う。
で、別にアジャイルソフトウェア開発でないとだめとは今の僕は思わないのだけど、この、主体は人間とその集団であり、その特性に寄り添うことは成功のかなり重要な要因だ、ということを思う。
さりとて人間は難しい
組織やプロジェクトを成功に導きたければ人間というものの理解が必要と言ったが、人間というものは非決定的なものである。単純な論理ではない、ゆらぎ、ぶれ、かたより、ひずみがある。同じ人であっても状況で反応が違うとか。だから扱いが難しい。人間は人間の手に負えないところがある。
古典的な組織管理手法は単純な人間モデルを強引に当てはめて、あたかも管理は難しくないように見せかけていた。さすがにそれは単純に考え過ぎということになるが、じゃあそういう複雑で非決定的な人間性というものをどう理解しその知見を扱っていけばいいのか、これは難しい。
人間は組織管理手法を待つまでもなくもともと社会的生物であり、帰属集団の成功を意識して振る舞う。人間というものを肌感覚で理解しており、それを空気と呼ぶほどだ。ただそれがかならずしもうまくできない。空気を読むことで疲れ果ててしまうこともしばしばなのだ。
単純な管理を選んでしまうのにも道理があって、難しすぎることははなからできないからなのだろう。
人間というものをどう知識化するか
このようなコンテキスト依存で非決定的なものに関する知識を扱う方法として思い起こされるのがパターン、パタン・ランゲージである。パターンとして人間や組織の特徴や特性を記述し、それを語彙として組織やプロジェクトの運営を行う(そのための会話を行う)といいじゃないか。
このような取り組みはすでに行われているとは思う。組織パターンや、Fearless Changeのような知識体系化の取り組みはなされてきた。ただ、人間や集団を理解する「サブテキスト(副読本)」に留まってしまっていたのかなと思う。パターンスノッブのような。しかし改めて、今の時代、組織でなにかをなしたいのなら人間についての理解、それを踏まえたアクションは絶対に必要で、そのために改めてパタン・ランゲージの出番がきているのではないかと思う。
LLM Wiki で組織パターンを収集する
AIと協働してWikiにナレッジを蓄積形成していく「LLM Wiki」という取り組みが紹介され、とても興味深いものと思った。このアプローチで、前述の人間に対する理解のパターンを収集し、組織運営、業務プロセスの知識ベースを作ったらどうだろうか。
心理学や行動経済学などの知見も知識項目になると思うし、会社とか部門とかの組織単位の特性も含まれていいと思う。パターン名なんかは組織独自の呼び名がまさにふさわしい。なんなら最近の職場ではコミュニケーションやドキュメントなどをAIも見ているので、AIのほうが人間の振る舞いについて詳しいかもしれない。AIと共同で組織パターンを記述するというのは目があると思う。
Wikiは元々ウォード・カニンガムがパターンを記述するために作ったシステムから出発している。LLM Wikiで組織パタン・ランゲージを作るというのは、まさに原点回帰である。
AIを用いた組織パターンの活用
先ほどかつてのパターンはサブテキストでしかなかったのが残念だったという話をしたが、このAI時代、AIは個人に寄り添う秘書のような存在にもなってきていると思う。チャットやメールになにかを書こうとするとき、AIはそのコンテキストに沿って助言をくれる。そのAIに、先ほどの組織パターンが参照されていたらどうだろう。
人間的な認知の偏りやコミニュケーションエラーを上手に回避するとか、円滑にエンパワーする方向にナッジするとか、そういうことが可能だろう。AIが個人の耳元でこっそり耳打ちしてくれる形なら、パターンの使いこなしにおける格差やマウンティングもうまれず、本来の意味での高い心理的安全性が得られるのではないか。
こうして人間理解を踏まえた組織運営のパターンは単なるサブテキストの域を超えて、真に有効な生きたナレッジ、組織のランゲージとなる。
ということで、人間を理解することが重要だが、それは簡単ではない。が、AIといっしょにパタン・ランゲージを作って活用すればいいんじゃないだろうか、という話でした。