第I部 Agile Japan2016 (5/31東京開催)から
基調講演(1)「スクラムがイノベーションを加速する 〜ソフトウェア以外にも適用されはじめたアジャイル〜」
- Joe Justice 氏 President Scrum in Hardware, Scrum Inc.
- 資料:http://www.agilejapan.org/2016/image/Keynote1_ScrumIncAgileJapan80minJ.pdf
TEDでも話しているとのこと。探してみてみよう。
最も普及しているアジャイル開発手法である「スクラム」の生みの親の一人ジェフ・サザーランドの会社にお勤め。非ソフトウェア分野でのスクラム導入・活用を指導。今日はその実践報告。
(ジェフ・サザーランドはスクラムは半分の時間で倍の成果をあげるチーム戦術であるとしており、ソフトウェア分野専用のものではないとしている。)
事例紹介、スクラムが注目される背景
スペースX社のイーロン・マスクは火星ロケット開発をスクラムでやっている。ひとつのチームがソフトウェアとハードの設計と実装をすべてやっている。
ある流通業者はロジスティックセンターの仕分けロボットの開発と運用をスクラムでやっている。制御ソフトをアップデートすることで業務改善ができるのが強みになっている。
投資家は事業者がスクラムを採用するのを好む。なぜか?スクラムはコストを下げ価値を上げるから。
ポルシェのリリースサイクルは7年(開発にはもっとかかる、オーバーラップでやっと7年になっている)。一般にハード製品のリリースサイクルは長い。ソニーのプレイステーションは4年おきに出る。これが1年毎になったらビジネス的にどうだ?
市場はアジャイルを求めている、価値を早く提供して欲しがっている。
半年以内に成果の出ないプロジェクトはキャンセルされる。
今教育分野にスクラムが導入されつつある。期間を短縮し、スコアを上げている。
スクラムについて
スクラムは「偉大なチーム」を求める
スクラムマスター(スクラムを実施する際に置かれる役割のひとつで、開発チームのコーチングや補佐を行なう)の仕事はチームをハッピーにすること。チームをハッピーにするとは、フラストレーションから解放すること。
ボーイングはスクラムを使っている。ウォーターフォール型の見積りと計画をやめた。アジャイル見積り。当事者が、繰り返し見積もる。
スクラムを導入するために
マネージャが納得しなければアジャイルの導入はない。スクラムはリスクが低いことを示さなければ、マネージャは嫌がる。
バーンダウンチャート(バックログ量を時間軸で描いたグラフ)を描け。リリース(顧客提供サイクル)バーンダウン、スプリント(開発サイクル)バーンダウン、デイリーバーンダウン。透明性はリスクを低減する。
テスト駆動開発(TDD)の考え方はハードでも使える。ダブル(まだできていない部分の代替)を使って実物を作っていく。
ハード開発はサプライヤに依存するので、サプライヤにもスクラムサイクルに入ってもらう必要ある。
オブジェクト指向アーキテクチャを採用すべき。すなわち、コンポーネントはインタフェースを介して連携し、インタフェース仕様を満たしていれば交換可能な構造にする。
ハードであっても、スプリント毎に設計、実装、テストする。ソフトウェアの場合と同じ。あるいは、DevOpsに近い。
ふたたび事例紹介
カリフォルニアのワイナリー(スパーリングワイン生産世界一)でスクラムを取り入れた
ワイナリーを、早く、幸せにする方法を従業員全員で考えた。アイデアを要求とみなしてバックログにした。バリューストリームマップを作った。二倍のワインを半分の時間で作るための見える化ボードを作って運用した。
サーブは一週間スプリントで戦闘機を開発し、6ヶ月単位にリリースしている。パイロットもスクラムチームの一員。
ノキアは五ヵ年計画を遂行したら会社のシェアがなくなってしまった(硬直した五カ年計画なんて時代遅れ)
ボッシュは役員がインセプションデッキ(アジャイル開発で使われるプロジェクト憲章)を書いている。ミッションに対する課題が、各事業部のミッションになる。
自動車メーカーでは、車のモジュール化が重視され進んでいる。モジュール毎にプロダクトオーナー(製品コンセプトや要件に責任を持つロール)がいる。一週間のスプリント。最初はなにもできない。部品サプライヤーとの契約も変えないといけない。大変だけどフィードバックから学び、徐々にできるようになる。メンバーはプロダクトオーナーと話、何が障害なのか理解する。
基調講演(2)「アジャイルなIoTプラットフォーム開発」
- 玉川 憲氏 株式会社ソラコム 代表取締役社長
- 資料:http://www.slideshare.net/SORACOM/agile-japan-2016-iot
玉川氏の開発手法遍歴。研究所時代:アドホック、ラショナル時代:ユニファイドプロセス(RUP)、留学時代:スクラム、TeamConcertのエバンジェリスト時代:大規模アジャイル。AWS:????、ソラコム:リーンスタートアップ
クラウドの登場が初期投資と失敗のリスクを下げた。スタートアップに追い風。不安やリスクが下がれば、イキイキハッピーになる。
ソラコムの成り立ち
IoTについて考えたとき、ネットワークに弱点があると思っていた。Bluetoothとかあるけど尺が合っていない、モバイルネットワークが適していると思うがヒト向けのサービスばかりでモノ向けがない。このサービス(キャリア)をSoftware-definedでやる。というアイデアを思いついた。
ちょっと余談
プラットフォームビジネスにはエコシステムが必要。一社だけでは成り立たない。パートナー制度、ユーザーグループ、などなど
プラットフォームビジネスはソフトウェアベースがよい。フィードバックに対応していくスピードのため。
前述のアイデアのポイント
1. デバイスで暗号化しなくても、インターネットに入る手前で暗号化すればいい。ソラコムのサービスはクラウド上だから、暗号化のリソースはある。
2. ソラコムはAWS上のサービスなので、AWSの機能で、顧客のサーバーとVPSを組めば安心安全。
リーンスタートアップでは、MVP(価値のある最小の製品)を世に問え、と言っている。間違いではないが、価値があるだけでは弱い。MLP(愛される最小の製品)でいこうといっている。
20人くらいの、キャリア(と能力)がある人で始めた。全員がリーダー。Amazonのリーダーシッププリンシプル参照。新しいモノを作る会社だから、定性的な評価が大目。働き方は各自リーダーシップを発揮する。チャット(Slack)ベースのコミュニケーション。リモート勤務OKなので、だからこそ毎月のランチミーティング、隔週のハッピーアワー(慰労のため定時後に会議室でビールを飲む)を大事にしてる。
計画は、大きなイベントを入れて目標にする、が、固執しない。
ここまで(基調講演2本)の感想
玉川さんはビジネス成果で勝負している人であってアジャイルは手段でしかない立場。ベンチャー企業として生き残りをかけている人がアジャイルのバリエーションのひとつであるリーンスタートアップでやっていますというのだから、そういうドメインではアジャイルが有効なのは間違いないと思う。Justice氏はスクラムをさまざまな業種で実践することのサポートをしていて、スクラムのよくないところについては言わないだろうことは差し引くべきだが、それでもスクラムの汎用性、有効性は高いと思われる。我々も、なにかを変えたい、なにかに適応したいという課題があるなら、スクラムは賢明な選択肢と思われる。